機動戦士ガンダム・パラレルストーリー
【Beginning to End】
第1章 第3話「ムンゾの民」
当時、ウィルスで冒された後に生き残った元感染者と感染者、その家族はスペース・ジェットに詰め込まれた。
苦しむ感染者と、健常者にも見える元感染者の子孫はDNAに損傷が残り、見ることすら辛いのが子供たちとなった。さらには、かろうじて生きている者もそうでない者も詰め込まれるように宇宙に上げられた。
人は自分さえ良ければと残酷になれるものだ。弱者である彼等はそれでも生きた。生きようとした。宇宙に適応してでも。
生きることに執着した。
だからこそ、生き残り、宇宙に棄てられた彼らは大地から見下す地球人を許せなかった。心の中で深く深く憎むようになった。
ましてや上げられたコロニーは植民地状態であり、無政府状態であり、憎しみは誰を対象とせずいつもぶつかり続けたが、管理する地球政府は武装という恐怖で圧し潰した。
そこに彼等の中から思想家として現れたのがジオテーラー・ダイクンである。
細身の長身にミュータントとは思えない人間らしい姿。それはそれだけで人たちの憧れであった。
ダイクンは見た目にはミュータントには見えなかった。
そして何よりも彼は能弁だった。
はじめは昼下がりの時計台の下で、本を読むように語りかけた。
「ムンゾの民よ、
そしてアジアは中国、日本、韓国や台湾、フィリピンなどの血を継ぐ者たちよ!
我々は何故、生きているのか?
地球政府は、諸君等が日々汗水を垂らし作り上げるコロニーの農作物などを毎年80%も強制徴収をしている!
その影で我々はゴミ箱を漁り、憎しみを募らせ、生きることを奪い合っている。
子供たちの眼差しはすさみ、理想も無い。
夢も無い。
これは、我々が望み、描いた未来なのか?
このままで良いのだろうか?」
民衆はその演説を唯一の娯楽のように聴き、涙を流す。
ダイクンは決まってそのうち歌を歌いだす。
「星の光に想いをかけて
熱い銀河を胸に抱けば
夢はいつしかこの手に届く
Chars beliving ours pray! pray!」
いつしかこの歌は、思いを共感させるダイクンとそれを聴く町の者たちの心を躍らせる歌となった。
毎日のように昼下がりや夕方、仕事を追えた後にそこに集い、ダイクンの演説を聴き、歌った。
子供まで歌った。
決まってそのままエデンというバーに場所を移し、酒を呑みながらアツく不満をぶつけ、叫ぶ夜が連なった。
(つづく)